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オイリュトミーと衣装

  • オイリュトミー
  • オイリュミードレス
  • シュタイナー
  • 衣装
  • エーテル体

2024年9月14日

ライター写真

小林 裕子

オイリュトミスト、にもプロジェクト代表

目次

調達の難しい衣装の生地

オイリュトミーの衣装は、不思議と手間が沢山詰まっている。手間に関して言うならば、既製品がほぼないということもあり、反物の裁断から染色まで全てのプロセスが手仕事で、本当に手間暇かけて作られる。

どこかに忘れてなくしてしまうという悲劇が襲えば、丸一週間ほど寝込みたくなるほどのショックだ。

音のオイリュトミー用の大変薄いシルク(ヴェール、或いはシュライアーと呼ぶ)は、今現在製造しているところはほぼない。今回、にもプロジェクト用に使ったヴェールは、個人のものだったり、オイリュトミーシューレから借りたものもあった。しかし多くは新たに作らねばならず、伝手を辿って現在唯一(と思われる)生地を売っている人を探しあて、ヨーロッパから送ってもらった。日本で調達しようと思うと、そのためにまず繊維工房を探し、サンプルを工場に持ち込み、製造をお願いすることとなる。ドレスの生地はそれに比べると手に入りやすいが、値段は高騰している。

オイリュトミードレスの形

形にしても、随分変わっている。まず体の線を出さない。出すどころか、ベクトルとしては隠す方向だ。私の恩師のドロテアさんは、舞台用のオイリュトミードレスのウエストにあるベルトは、細いゴムであるべきで(これは早い着替えを可能にするためだが)、おまけにほぼベルトにならないほど緩く「存在」すべきだと言う。
袖にしても、かなり幅が広く、ドレス本体も舞踏会用のドレスかというほど長いし、ゆったりとしている。

これにはれっきとした理由がある。
エレナ・ツッコリは「言葉と音のオイリュトミー」という著書の中で、シュタイナーが衣装について言及したことを書き記している。オイリュトミーの衣装は、オイリュトミーの動き―それはエーテルの動きだが―を、支えるものであると。それ自体に注目を集めるのではなく、オイリュトミーの動きそのものの表現を目に見える形で支えるものが、衣装だという。エーテル体―生命エネルギーと言っても良いだろうかーには骨がない。骨は物質的な人間の特徴だ。身体にぴたりと沿った衣装であったならば、身体が強調されるだろう。だが、生命を維持するエネルギー:エーテル体は物質的な体を超えて、溢れ出ている。その観点から今一度オイリュトミードレスを見てみると、なるほどと思う。

各楽章の楽器の役割を表す衣装の色

そういう意味で、衣装の色もまた、オイリュトミーの動きの表現を支える道具である。高い音色の楽器の衣装ほど薄い色をしているのは、オイリュトミーでのその動きがより軽く繊細で透明感に溢れているからだ。

オーケストラオイリュトミーでは、楽章ごとに、それぞれの楽器の衣装の色が変わる。その楽器がどんな役割を果たすか、それぞれ違うからだ。

1楽章と4楽章はほぼ全部の楽器が同じだが、第2楽章と第3楽章は、楽器によっては随分と色が変わる。金管が良い例だと思う。2楽章では、金管楽器の衣装は赤系のドレスに、赤から赤紫のヴェールに対し、3楽章ではターコイズとリラ色の組み合わせだ。

第2楽章の金管は、ほぼ最初と最後にかけて盛り上がる部分、そして最後以外あまり鳴らない。最初と最後も重厚な和音の進行を支え、盛り上がる部分でさえ、高らかだかとても短い間しか歌わない。金管は、この楽章を貫く歌を温かく力強く支え続けている。そういった意味で、暖色である赤、赤紫は、その役割にぴたりと来ると感じる。

その反対に、第3楽章はターコイズとリラという寒暖色の組み合わせで、動きがある。楽章を聞いていても、活発に他楽器との関りがあり、コーダの部分では皆を引っ張って最後まで歌いきる。そういった意味で、停滞を示す赤ではなく、流れがある青系であるターコイズと熱を感じるリラの色は、この楽章の金管の色として最適だと思う。

「新世界より」衣装の色の記録から

因みに、新世界よりの衣装の色の記録は、初上演である1960年代に初めてドルナッハの舞台グループが第2,3楽章を上演した時のもの、そして80年代に取り組まれた時の記録がある。第2楽章の金管は、当初からあまり変わっていないが、第3楽章金管のドレスは時を経て、少しずつ変わっている。2005年にドロテアさんが監督をした際は、80年代までのドレスは赤だったが、ターコイズに変えた。にもプロジェクトの衣装は、2005年の衣装の色を引き継いでいる。

衣装も、フォルムも、守らなければならないルールではない。芸術監督が代われば、音楽の感じ方も違ってくるのは全く自然な事だ。音楽をひたすらよく聞き、魂がどう動くのか、何を体験しているか真摯に向かう事だけが、いつの時代にも求められるのだと思う。誠実に音楽に、そしてオイリュトミー存在に向き合う事、全身全霊で音楽の器になること、それに徹底しさえすれば、自ずと衣装の色も形も見えてくるであろう。

2024年9月 にもオイリュトミープロジェクト福岡公演に寄せて

ライター写真

小林 裕子

オイリュトミスト、にもプロジェクト代表

2001年NY州スプリングバレー・オイリュトミー学校卒業後、ドロテア・ミアー率いる舞台グループに所属し、欧米で公演活動をする。
同時にNY州周辺のシュタイナー学校、幼稚園でオイリュトミーを指導。
2007年に帰国後、子供や愛好者のクラスを持つ。
2019年に日本でのオーケストラ・オイリュトミー公演を心に決めてから、諸々大忙し。

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